大臨技では、これらの問題に関してグループで翻訳を行っています。このグループに参加ご希望の方、訳に対する疑問等は、中島康仁(松下記念病院)fwhz2544@mb.infoweb.ne.jp までご連絡下さい。 |
血液または体液に接していた傷や皮膚は石鹸と水で洗い、粘膜は水で洗い流す。創傷ケアのために消毒薬を使用することや創傷から体液を搾り出すことが、血液媒介病原体の伝染リスクを減少させるという証拠はないが、消毒薬を使用することは禁忌ではない。創傷の中へ例えば漂白剤のような腐食性の物質を使用したり、あるいは消毒剤を注射することは推奨しない。
職業曝露が生じた場合、曝露した人のプライバシーが保障されているカルテに状況や曝露後の処置を記録する。(通常、この目的のために施設が指定した様式を用いる。)(Box 1) さらに雇用者は、職業上の傷害や曝露を記録・報告するよう求めている全ての連邦 (職業案安全衛生局:Occupational Safety and Health Administration を含む)および州の規定に従わなければならない。
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生体物質の種類や経路、曝露の重症度に基づいて、HBV、HCVおよびHIVに感染する可能性について曝露源を評価する。(Box 2) 血液、肉眼的に血液を含んでいる体液、その他の体液で感染の可能性があるもの(精液、膣分泌液、脳脊髄液、滑液、胸水、腹水、心嚢液、羊水を含む)、および組織は血液媒介ウイルスの感染がありえる。これらの体液や組織が経皮的創傷(例えば針や他の鋭利なものによる)あるいは粘膜に触れる曝露では、血液媒介ウィルス感染の危険があり、更なる評価が必要である。
HCVやHIVにおいて、内部が血液で満たされている注射針や肉眼的に血液が付着している器具による曝露は、よく注射をするのに使用されたと考えられる針によるものよりも危険だと思われる。加えて、研究所や製造施設で濃縮ウイルスに直接接触すること(予防する装備がなかったり、皮膚や粘膜を保護しきれなかったとき)は臨床的評価を必要とする曝露であると考えられる。
皮膚の曝露については、前述した体液の曝露を伴い、かつ皮膚が危険にさらされていること(例えば皮膚炎、擦り傷、開放創)が証明される場合のみ経過観察を指示する。人の噛み傷についての臨床的評価は、噛まれた人と噛んだ人の曝露の可能性を考えなければならない。噛み傷がどちらかに対して血液曝露をもたらすようであれば、曝露後の経過観察を指示する。
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血液あるいは体液を介して曝露が起こったときは、曝露源者のHBV、HCV、HIV感染を調べる(BOX3)。曝露時、カルテに記載されている情報(検査所見、診断名、過去の病歴)や曝露源者の情報により、血液媒介ウイルスの感染を確定あるいは排除できるかもしれない。
HBV、HCV、HIVに対する曝露源の感染状況がわからないならば、曝露源者に一連の出来事を告知し、血液媒介ウイルス感染に対する血清学的な検査を実施する。曝露源者を検査する際の手続きは、広く行われているインフォームドコンセントをはじめ、州や地域の法律に従う。HBV、HCV、HIVに感染していると結論づけられた人に対しては、適切なカウンセリングや治療を依頼する。曝露源者の守秘義務は常に維持されなければならない。
曝露源者のHBV、HCV、HIVに対する感染状況を裏付ける検査は、できる限り速やかに実施する。曝露した医療従事者をかかえる病院やクリニックなどの施設は、これらの情報を迅速に入手するため、最適な方法を熟知している検査室と協議する。FDAによって承認された迅速HIV抗体テストのキットは、このような状況下、とりわけEIAによる検査が24〜48時間以内に完遂できないような場合に考慮されるだろう。EIAあるいは迅速HIV抗体テストで繰り返される陽性結果は感染を強く示唆するが、陰性結果はHIV抗体を欠いていることの良い指標である。ウェスタンブロットや免疫蛍光抗体法によって陽性結果を確定することは、曝露後の処置に関して必要不可欠というものではないが、全検査を完遂するために、そして曝露源者に結果を伝える前に実施する。HCV抗体(EIA)に対する繰り返される陽性結果は、recombinant immnoblot assay [RIBATM] やHCV PCRのような追加検査によって確定する。曝露源者に対して、直接的なウイルス検索(HIV p24抗原、HIV RNA、HCV RNA)を、ルーチンのHIVあるいはHCVのスクリーニング検査として組み込むことは推奨しない。
曝露源がわからないか検査不可能であれば、どこで、どのような環境で曝露が起こったかという情報をもとに、HBV、HCV、HIV感染の可能性を疫学的に評価する。ある特定の状況や曝露タイプは、感染リスクが高まるのかあるいは低くなるのかの指標となるだろう;重要なことは、汚染された感染物質がHBV、HCV、HIVが蔓延しているグループ(施設やコミュニティー)から由来しているかという点を考慮することである。例えば、注射針を使う薬物使用(IDU)が流行している地区あるいは薬物使用者治療施設で廃棄された針で起こった曝露は、高齢者の介護施設で起こった曝露よりも感染するリスクは疫学的に高いと考えられる。
曝露にかかわった注射針や他の鋭利な器物を検査することは、曝露源が既知、未知にかかわらず推奨しない。このような状況では結果の信憑性と解釈が不明確で、加えて検査の実施は鋭利な器物を取り扱う者を危険にさらす。
HBV、HCV、HIVに感染している可能性を評価する際、考慮すべき情報として、臨床検査情報(それまでに実施したHBV、HCV、HIV検査結果や免疫学的検査結果[CD4+ T-Cell count])、肝の酵素(ALT)、臨床症状(HIV感染初期を示唆する急性症状や診断が確定していない免疫不全症)、HBV、HCV、HIV曝露の可能性を示す最近の経歴(IDUや陽性者のパートナーとの性的接触)がある。職業曝露を調査するとき、曝露源者のHIVに関する血清学的情報の収集や公表を規定している州や地域の法律を関係者は遵守する。
もし曝露源者がHIV感染者であることがわかっていれば、適切なPEP療法の選択を考慮するため、この患者の感染ステージ(無症候性、症状あり、AIDS)、CD4+T-cell数、ウイルス量、現在や過去の抗レトロウイルス療法歴、遺伝子型と表現型の耐性結果を収集する。もしこのような情報が直ちに入手でなくても、PEPの指示があれば開始を遅らせるべきではない; PEP開始後であっても適切なPEP処方に変更できる。曝露した人の再評価は、72時間以内に行われなければならない。
もし曝露源者が血清学的にHIV陰性であり、臨床的にAIDSやHIV感染の症状がなければ、HIV感染に関する更なる検査は必要ない。感染源者が急性レトロウイルス症候群の微候が現われないHIV感染の“window period”である可能性は極めて低い。
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経皮的あるいは粘膜の血液曝露は、曝露源のHBs抗原ならびに曝露した人のHB予防接種の状況とワクチンに対する反応性など、提供する曝露後予防対策(Postexposure Prophylaxis:PEP)を決定する際はいくつかの要素を考慮しなければならない。通常、そのような曝露はHBワクチン接種が勧められる人おこる。ワクチン投与を受けていない人が血液や体液に曝露したときは、一連のHBワクチン投与を開始する。
可能ならば、曝露した人のHBワクチンの接種状況およびワクチンへの反応性について再調査する。血液に経皮的あるいは粘膜に曝露した際、曝露源者のHBs抗原の有無、曝露した人のワクチン接種およびワクチンへの反応性に基づいた予防勧告法の要約を示す(Table3)。
HB免疫グロブリン(HBIG)が指示されれば、曝露後速やか(なるべく24時間以内)に投与する。曝露後7日以上たって投与した時の効力は不明である。HBワクチンが指示された時もできるだけ迅速(24時間以内が好ましい)に接種すべきであるし、この場合、他の部位でHBIGの同時投与も可能である(ワクチンは常に三角筋に筋注する)。
一連のワクチン接種が完了する前に曝露した人には、計画通り完全にワクチンを接種し、指示が出ればHBIGも追加投与する(Table3)。一連のワクチン接種に対して反応性を示さなかった人がHBs抗原陽性の血液または体液に曝露した時は、曝露後できるだけ速やかに1回分のHBIG投与と第1回目のワクチン量でもってHBワクチンの再接種を開始する。これとは別に曝露後直ちに1回分のHBIGを投与し、2回目を1ヶ月後に投与するという方法もある。1回分のHBワクチン接種と一連のワクチン接種の再開という選択は、2クール目のワクチン接種(1クールで3回接種)が完了していない人で反応を示さない人に好ましい。前もって2クール目のワクチン接種が完了しているが反応しなかった人には、2回分のHBIG接種が好ましい。
- Table3(省略)-
医療従事者を対象とした、血液に経皮的あるいは粘膜曝露した後のHCV検査の方針や手順については、個々の施設で制定し、全職員がその方針や手順を熟知していることが大切である。職務上HCVに曝露した人を経過観察するのための勧告法を次に示す。
HCVに曝露した医療従事者の健康管理の専門家は、HCV感染のリスクや適切なカウンセリング、検査および医療面での対応について熟知しておく。
HCV陽性血に曝露した後のPEPに、免疫グロブリンと抗ウイルス薬を用いることは推奨しない。付け加えると、HCV感染急性期の治療管理に関するガイドラインは存在しない。
しかし、抗ウィルス療法はHCV感染後、初期に治療をはじめると有効であるというデータも限られているが存在する。HCV感染が初期に確認されたら、この領域の専門家に紹介する。
HBVあるいはHCV感染者の血液に曝露した医療従事者は、経過観察の間、2次感染を防ぐための特別な予防措置は必要ない(12,13)。しかしながら、血液・血漿・臓器・組織・精液の提供は慎むべきである。曝露した人は性行為を控えたり、妊娠を回避する必要はない。もし曝露したのが女性で、母乳で子育てしていても中断する必要はない。
HBVあるいはHCV陽性血液に曝露したというだけで患者への伝染を防ぐため、曝露した人の業務を軽減する必要はない。もし曝露した人がHBVに急性感染したら、感染が成立した医療従事者向けの勧告(既刊)によって評価する(165)。HCVに感染した医療従事者に対しては、専門職としての業務を制限する勧告は存在しない(13)。全ての医療従事者に推奨しているのと同様、HBVあるいはHCVに慢性的に感染している人も、スタンダード・プリコーション、適切な手洗い習慣、防護用具の使用、針や他の鋭利な器具の注意深い使用と処分等、推奨されているあらゆる感染予防法を遵守する(162)。
HIVに曝露した医療従事者は、曝露後数日よりむしろ数時間以内に評価すべきであり、曝露直後にHIV検査を行う(曝露時の感染状態を立証するため)。もし曝露源者が、HIV seronegative(HIV陰性)なら、直後の検査や曝露した人のその後の検査は必要ない。職業的にHIVに感染してしまったかもしれない全ての医療従事者に対して、血清検査を受けられるように整備しておく。HIVのPEPを考えるにあたっては、曝露した人が使用している薬物や、最近の健康状態あるいは基礎疾患などの薬物を選ぶ際に影響を与えるかもしれない状況(妊娠・母乳栄養・腎疾患・肝疾患)についても考慮する。
次に示す勧告法(Table4,Table5)は、HIV感染者に曝露した時、あるいは感染源者がHIV感染の可能性がある場合に適用する。これらは曝露のタイプとその後のHIV感染のリスクや、PEPの効能と毒性に関する限られたデータに基づいている。職業上HIVに曝露した人のほとんどは、結果的にHIVに感染していないので、PEPを処方する際には、潜在毒性に十分注意しなければならない。HIV曝露の初期処置を行うために、健康管理施設はPEPを開始する時に処方される薬剤や使用可能な薬剤を常備しておく。可能ならば抗レトロウイルス治療やHIV感染の専門家に相談することを推奨する(Box4)。
- Table.4(省略)- - Table.5(省略)-
PEPのタイミングと期間 PEPは可能な限り直ちに開始すべきである。最良な効果を得るためのPEP開始時間はわかっていない。動物実験では曝露後直ちにPEPを開始する重要性が証明されている(111,112,118)。どの抗レトロウィルス剤を使用するか、基本療法と拡大療法のどちらにするかについて疑問が残っていても、PEPを遅らせるよりは基本療法を直ちに開始するほうがよい。動物実験では曝露後24〜36時間以降のPEP開始は、効果がかなり低下するであろうことを示しているが(112,119,122)、人間ではどのくらい経過したらPEPが役立たないかという時間については明示されていない。それゆえ曝露したのであれば、たとえ曝露後36時間経っていてもPEPを開始すべきである。長時間(例えば1週間など)経った後の治療開始は、感染の危険が高い曝露であれば検討してもよい。PEPの最適期間は不明である。職業曝露や動物実験において4週間のZDVは予防効果があらわれたので(100,123)、もし耐えられるのであればPEPは4週間実施すべきだ。
曝露源者のHIV感染状況がわからない時のPEP 曝露した時に曝露源者のHIV感染状況がわからないならば、曝露の種類や曝露源者のHIV感染の臨床的・疫学的可能性を考慮した後に、状況に応じてPEPを決定する(Table4,Table5)。これらを考慮した結果、HIV感染の可能性があり、曝露源者のHIV検査の結果待ちという状況であれば、検査結果が得られるまで2剤によるPEPを開始し、後に状況に応じて療法を変更したり中止したりするのが適切である。以下はHIVのPEPに関する勧告である。
妊娠中の医療従事者へのPEP 曝露した人が妊娠中だとしても、HIVに曝露した人と同じように、感染の危険性とPEPの必要性を評価する。しかしながら、妊娠中の抗レトロウイルス薬の使用決定には、本人と胎児にかかわる利益とリスクについて、本人と医療提供者との間でじゅうぶんに話し合うべきである。特定の薬剤は妊娠中の女性には禁忌である。催奇形性(奇形発生に影響を及ぼす薬物の性質)の影響が霊長類で観察されているため、妊娠中はEFV(非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤:エファビレンツ )を推奨しない。d4TとddI(ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤:サニルブジン、ジダノシン )のコンビネーション治療を受けた妊婦において致命的な乳酸アシド−シス血症の報告があるため、これら薬剤を妊娠中に使用することに対して警告を発している。IDV(プロテアーゼ阻害薬:インディナビル)は新生児高ビリルビン血症のリスクがあるため、出産直前の妊婦には使用すべきではない。
HIVにおけるPEPの薬剤処方を選択する際、医療を提供する者は用いる薬剤の潜在的な毒性と感染の危険性とのバランスを保つよう心がけなければならない。PEPは潜在的に毒性を有するので、感染リスクが無視できる曝露に対しては、薬剤の使用は正当化されない(Table4、5)。さらに全てのHIV曝露に対して、推奨されている3剤療法を支持する満足な証拠はない。したがって、2種類のPEPを提示した(Appendix C):基本となる2剤療法はほとんどのHIV曝露に有効であり、拡大された3剤療法は感染リスクが高い曝露で用いる(Table4、5)。可能ならばPEPの処方は、抗レトロウイルス治療やHIV感染の知識をもつ専門家のコンサルテーションのもとで実施すべきである。
ほとんどのHIV曝露は2種類のヌクレオシド系薬剤による2剤療法を行う(例えばZDVと3TC、3TCとd4T、d4Tとddl)。3剤目の追加は感染リスクが高いとみなされる曝露で考慮する。PEP処方の選択は曝露と曝露源についての情報(抗レトロウイルス薬に対する投与歴と反応性、CD4+ T-cell数、ウイルス量、現在の病期など)によって判断される相対的なリスクを考慮する。曝露源のウイルスが、PEPに処方された薬剤の1つ以上で耐性を示したり耐性が疑われるときは、耐性を示しそうもない薬剤の選択が推奨される;すなわち専門家のコンサルテーションを勧める。たとえ情報がすぐに入手できなくても、必要時にはPEPの開始は遅らすべきではない;PEP処方の変更はPEP開始後であっても適切なものに変更できる。曝露した人の再評価は曝露後72時間以内、特に曝露あるいは曝露源者に関するさらなる情報を入手した段階で考慮する。
曝露後の検査 HIVに職業曝露した医療従事者はPEPの有無にかかわらず、カウンセリング、曝露後の検査、医学的評価(診察?)を受ける。HIV抗体検査は少なくとも6ヶ月間(6週、12週、6ヶ月後に)行う。HIVとHCVの両方に感染している人に曝露した後、HCVの感染が明らかとなった医療従事者に対しては、HIVに対する経過観察の延長(たとえば1年間)を奨める。他の状況、例えばHIVとHCVに重感染しているがHCVのセロコンバージョンが見られない人に曝露した場合や、通常では急性感染症に対して抗体反応が発現するはずなのに、曝露した人がこの機能に障害を示すような医学所見を有する場合、経過観察の延長が必要かどうかは明らかではない。HIVセロコンバージョンの遅延という稀な症例が報告されているが(167,168)、このために曝露後の経過観察を日常的に延長し、曝露した人の不安を掻きたてることに対して正当な理由は見あたらない。しかしながら、健康管理者の臨床的判断に基づき、曝露した人の個々の事情によっては経過観察の期間を延長しても構わない。曝露後の期間にかかわらず、急性レトロウィルス症候群のある人は誰でも、HIV検査を受けるべきである。HIV感染が確認されたら、HIV治療やカウンセリングの専門家に照会する。
EIAによるHIV抗体検査は、セロコンバージョンのモニターに使う。曝露した医療従事者が感染したかを検出するための直接ウイルス分析(HIV p24抗原EIAやHIV RNA検査など)を日常的に使用することは、一般的に推奨しない(169)。このような状況下、これらの検査の高い偽陽性率は、余計な不安や治療を導きうる(170,171)。直接ウイルス分析はEIAよりも数日はやくHIV感染を検出できるが、職業曝露によるセロコンバージョンがまれであることや、コスト増につながることから、日常的に使用することの根拠にはならない。
PEPの薬物毒性のモニタリングと管理 PEPを実施することになれば、曝露した医療従事者を曝露直後およびPEP投与開始後第2週目に再度検査することで薬物毒性を監視する。曝露した人の健康状態とPEPで処方した薬物毒性に基づいて検査範囲を設定する。検査室での毒性モニタリングは最低限、末梢血一般検査(血球数)、腎機能および肝機能検査を行う。PI(プロテアーゼ阻害剤)を処方した医療従事者に対しては、高血糖のモニタリングを実施する。曝露した人がIDV(インジナビル)を投与されているなら結晶尿症、血尿、溶血性貧血、肝炎のモニタリングを含めるべきである。毒性を認めたら専門家に相談した後、処方の変更を検討する。この場合さらなる診断的な検査が必要となるかもしれない。
曝露した医療従事者がPEPを選択した際は、指示された処方を完遂することの重要性をアドバイスする。薬剤間の相互作用の可能性、PEPと併用すべきでない薬剤、処方された薬剤の副作用、これらの影響を最小限にする方法、経過観察中の臨床上の毒性モニタリングの方法についての情報を提供する。次のような徴候をみたとき、遅れることなく検査を受けるよう医療従事者にアドバイスする(例えば発疹、発熱、背中及び腹部の痛み、排尿痛または血尿、高血糖の徴候、[口渇や頻尿])。
医療従事者は自分たちが経験する副作用(吐き気や下痢など)のために、指示された処方を完遂できないことがしばしばある。これらの症状に対しては制吐薬や特有の症状をターゲットにした他の薬剤を投与することで、処方を変えることなく維持していくことができる。状況によっては、投薬の間隔を修正することで治療の継続を容易にするかもしれない(メーカーの推奨に従い、1回あたりの投薬量を少なくする代わりに1日あたりの投薬回数を増やす)。重大な有害事象はFDA のMed Watchプログラムに報告する。
カウンセリングと教育 職業曝露に伴うHIV感染はごくまれにしか起こらないが、曝露に伴う精神的な影響は重大なものがある。加えて医療従事者には表面上、相反するような情報が与えられる。HIVに感染するリスクは低いという話はするものの、4週間のPEPを奨励するし、2次感染を防ぐため行動に制限を設けるよう求められるが(禁欲、コンドームの使用)、これら全ては数週間から数ヶ月にわたる彼らの生活に影響を与える。それ故に、職業曝露によるHIV感染に造詣が深い人や、HIVに曝露したことがもたらす様々な心配事に対応できる人へのアクセスは、曝露後の管理における重要な要素である。HIVに曝露した医療従事者は経過観察の期間中、とりわけほとんどのHIV感染者がセロコンバートを起こすとされている曝露後最初の6〜12週間は、2次伝染を防ぐため以下に示すような慎み深い行動をとるようアドバイスする;性感染を妨ぐための禁欲やコンドームの使用、妊娠の回避、血液・血漿・臓器・組織・精液の提供を断つこと。もし感染した女性が授乳していたら、母乳からのHIV感染のリスクについて助言を与え、特にハイリスクの曝露においては授乳の中止を考える。加えて、NRTI(ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤)はNVPと同様に母乳中を通過することが知られている;これはまた、他の承認されている抗レトロウイルス剤にもあてはまるかどうかはわからない。
HIVに曝露したというだけでは、患者への伝染防止のために曝露した人の患者ケア業務を見直す必要はない。もしHIVセロコンバージョンがわかったなら、感染が成立した医療従事者向けに公表されている勧告に沿って評価する。(175) 曝露した医療従事者は、経過観察中に急性症状を生じた時には受診するよう勧告する。特に、発熱・発疹・筋痛症・疲労・不快感・リンパ腺症のような症状なら、HIV感染急性期の徴候かもしれないが、薬の作用かあるいは他の臨床症状かもしれない。
PEPの適応があると判断された曝露に対して、医療従事者には以下の情報が伝えられなければならない a)PEPに使用する薬剤の効果について知識が限られていること b)効能を増大させたり、薬剤耐性ウイルスを防ぐため、専門家は併用療法を勧めていること c)HIV感染していない人や妊娠女性に対する抗レトロウイルス剤の毒性に関するデータが限られていること d)抗レトロウイルス剤の短期間の毒性については、通常、限定的であるが、PEPを実施している人に重篤な症状が起こったことがあること e)PEPで用いる薬剤のいくつかあるいはすべてを、曝露した人が断ったり中止できること。HIVに曝露したがPEPを推奨しない医療従事者に対しては、PEPのより重大な潜在的な副作用や毒性が、曝露のタイプから推測されるわずかなHIV感染のリスクを超えるものであることを告知すべきである。
いくつかのリソースが利用可能で、職業曝露の管理に関する医療従事者向けのガイダンスが提供されている。これらのリソースには以下のものがある;PEPライン・針刺しウェブサイト・肝炎ホットライン・CDC(職業曝露でHIVに感染した報告やPEPの失敗例の報告を受理している)・HIV抗レトロウイルス妊娠記録・FDA(抗レトロウイルス剤の稀なあるいは重篤な毒性についての報告)・HIV/AIDS治療情報サービス(Box 5)
- Box 4(省略)- - Box 5(省略)-