感染性胃腸炎原因ウイルス

〜ノロウイルス〜

大阪市立大学医学部附属病院 今井 重良


1.ノロウイルスは,新種ではありません(以前は小型球形ウイルスと呼ばれていた)

平成14年 食中毒病因物質ランキング
   食中毒統計  (総事件数 1850件)

 1位 サルモネラ属菌 465件
 2位 カンピロバクター属菌  447件
 3位 ノロウイルス 268件   
(注:発生患者数から見ると,ノロウイルスは7961名で第1位です)

2. 棲息部位は?
 ・ ヒトが唯一の感受性動物です。
 ・ 棲息部位は消化器官内で便中・嘔吐物などに存在します。
 ・ 体外に出た,便中・嘔吐物のノロウイルスは長期間の感染性があります。
 ・ 感染者の糞便などが河川や海に流れ込み,ノロウイルスは,かき,はまぐり,とりがい,シジミ等の二枚貝類に集積されます。

3. 感染経路は 経口感染・飛沫感染?
 ・ ノロウイルス汚染した食物・飲料水による経口感染です。
 ・ ノロウイルスの付着した手指による飲食感染があります。
  (加熱してあるからといって安心はできません)
 ・ ノロウイルス感染者の便や嘔吐物等の飛沫物による経口感染があります
  (ノロウイルスは乾燥すると空中に漂いやすく,経口感染することもある)
  (糞便,嘔吐物は乾燥する前に処理しましょう)

4.どんな病気?
・ 潜伏期間は24〜48時間で発病し,24〜60時間持続することが多いようです。
・ 主症状は吐き気,嘔吐,下痢等です。
・ 時に,差込み様腹痛,頭痛,発熱,悪寒,筋痛,咽頭痛を伴うこともあります。
・ 乳児から成人まで幅広く感染します。
・ 一般に症状は軽症,治療を必要とせずに軽快。稀に重症化することもあります。
老人や免疫力の低下した乳児では死亡例もあります。
ノロウイルスは症状消失後も3〜14日間ほど便中排泄されます。
  ⇒ 下痢が治っても安心できません

5.「これぐらいなら大丈夫」は大間違い
・ 10〜100粒子のウイルス量でも摂取すれば発病するとされています。

6.消毒法は?
 情報やデータは充分ではありませんが,まず「一般的事項」と「現在のお勧め法」を紹介します。

<一般事項>
・ 酒精綿によるアルコール消毒は確実ではありません。
・ アルコール消毒をするには消毒用エタノールに10〜30分程度の浸漬が必要です。
・ 有効なのは次亜塩素酸ナトリウムです。
・ 2%グルタルアルデヒド(ステリハイド)も有効ですが,副作用が強いので取り扱いには注意が必要です。

<現在のお勧め消毒法>
〜手洗い法〜
(ア)手指を石けんでよく泡立て,水道流水により石けん成分を洗い流し,さらに流水で15秒程度すすぎます。
(注:石けんは手指付着のウイルス数を減らす効果があり,失活作用はないと言われていますが,トリクロサン,フェノール誘導体およびヨード剤入り薬用石けんでは有用との報告もあります)
(イ) その後,消毒用エタノール,ポビドンヨード,速乾性擦式エタノ‐ルのいずれかを従来どおり使用しましょう。

〜糞便,嘔吐物の処理法〜
@ 処置時は,マスク,ディスポ手袋,ガウン等を着用しましょう。
A ウイルス飛散を避けるため,ペーパータオルで静かに拭き取り,オムツ等は揺らさないように扱いましょう。(液状汚物をチャプチャプするとエアロゾル化の可能性あり)
B 使用したペーパータオル等は,0.1%(1000ppm)の次亜塩素酸ナトリウムに10分程度浸漬したあとで処分しましょう。(一般ゴミとして可)

〜環境・器具類の消毒法〜
滅菌・消毒には,「0.1%(1000ppm)次亜塩素酸ナトリウム(60分接触)が有効」と記載された成書もあります,たっぷりと浸けるように清拭しましょう。
@ 患者の使用した,トイレの便座,水洗用弁,ドアノブ等の直接接触する部位は,0.1%(1000ppm)の次亜塩素酸ナトリウムで浸けるように清拭しましょう。(0.02%200ppm濃度の次亜塩素酸ナトリウムでもよいとの記載もあります)
A 金属部分などは消毒用エタノールで浸けるように清拭しましょう。
B 汚物の付着した床等は,0.1%(1000ppm)の次亜塩素酸ナトリウム5〜10分間浸たすように清拭しましょう。
C 糞便などの汚物汚染の激しい場合は,(1.1%(11000ppm)次亜塩素酸ナトリウムで浸けるように清拭したほうが確実です。

〜調理器具 まな板,フキン タオル等の消毒〜
@ 洗剤を使用し充分に流水で洗浄しましょう。
A その後,0.02%(200ppm)の次亜塩素酸ナトリウムに10分以上浸漬しましょう。
B 塩素による腐食が考えられる場合は85℃以上1分間以上の加熱をしましょう。

                                     (情報提供:大阪市立大学医学部附属病院ICTNEWSより)