寄生虫講習会報告
- 見逃していませんか?身近な寄生虫 -
(財)阪大微生物病研究会 向井 紀枝
微生物検査および感染症検査を担当するなかで原虫寄生虫の検査は二の次になり,原虫寄生虫を専門とする検査技師さんはマニアックになりがちですが,感染症新法でもいくつかの原虫感染症があげられ,先日は上水道からジアルジアが検出されたことが年末の餅つきの光景と共に放映されました。細菌検査を中心とする微生物・感染症検査の専門家として原虫寄生虫についても知らなければならないでしょう。サイズが大きいだけに,興味を持つと結構おもしろいです。今回は平成16年9月11日千里ライフサイエンスで神戸大学医学部保健学科病態解析学講座教授宇賀昭二先生による「見逃していませんか?身近な寄生虫」という講演があり,その中から回虫による幼虫移行症について報告していただきました。
人畜共通伝染病
動物を介して人に伝染する病気を人畜共通伝染病という。病原体はウイルス・細菌・寄生虫であり多種類存在するが,近年ペットとして飼われている動物の中で特に多い犬や猫の病気で公衆衛生上問題になるのが回虫症である。
〔回虫〕
・ 体長20〜30cm 淡黄色で長円筒形
・ 雌雄異体−♂尾端に交接刺 ♀交接輪
・ 頭部−3つの口唇と乳頭が存在
・ 虫卵−3層構造
ホルマリン10% アルコール45%→生存
0℃ 湿度60%→203日生存
70℃ 1sec→死滅
〔幼虫移行症〕
本来動物に寄生している寄生虫の虫卵や幼虫が人に侵入して体内を迷走する状態でおこる様々な症状のこと。幼虫は人の体内で数年間生存し,その間の組織内を動き破壊する。特に最近問題になっているのが犬・猫の回虫である。これらは人の体内では成虫になれない。
感染経路
回虫に汚染された水や公園の砂場など土壌との接触,野菜をよく洗わず,生食することによって感染する。(経口感染)
人の体内での動き
卵→経口感染→小腸で孵化し幼虫となる
幼虫→腸→血液中→全身の組織に寄生し数々の炎症を起こす。
幼虫移行症の症状
@ 眼幼虫移行症
幼虫が眼球内に侵入し眼痛・頭痛・視力低下・失明をきたす
A 内臓幼虫移行症
幼虫が肝臓,肺,心臓,筋肉,皮膚などに侵入し発熱・腹痛・肝肥大・肺炎・心筋炎・蕁麻疹等をおこす
検査法
通常の糞便検査は無効である。又,症状は幼虫体の迷走する場所によって変化に富むため,症状からだけでは診断できない。そのため血清学的あるいは分子生物学を応用した検査法があるが高価であったり,繁雑な手技が必要であったり,限られた研究室でしか行っていない。予め想定した寄生虫について個々にその感染の可能性を探る必要がある。
予防
*子供の感染率が高いので砂遊びの後や動物と遊んだ後はよく手洗いする。
*ペット等動物の糞便検査をして寄生虫の感染がない事を定期的に調べる
→感染があれば適切な駆虫をする
*野菜はよく洗ってから食べる。
*食事前の手洗いの徹底
*ペットの糞便の後始末をする。(散歩時の糞は持って帰る)
<終わりに>
寄生虫症は決して過去の疾患ではないということや,近年の食習慣の変化が顕著になってきたこと,交通手段の発達による海外との交流の増加,開発途上国を中心とする海外からの訪問者の増加などにより新たな寄生虫症の感染となりうる可能性も否定できないということを頭にいれて,一般検査室だけでの仕事とせず我々微生物検査室の技師も寄生虫を十分に理解し最新の寄生虫学の動向にも注意を払っていかなければならないと思いました。