感染症レビュー

〜先天性風疹症候群(Congenital rubella syndrome:CRS)〜

国立病院機構 大阪医療センタ− 佐子 肇


【はじめに】
 先天性風疹症候群(CRS))は風疹に対する抗体陰性の妊婦が風疹ウイルスに罹患すると,胎盤を介して母親の抗体が胎児に移行することのできない(胎児の器管形成が体内で行われている期間)妊娠3ヶ月未満の胎児が風疹ウイルスによって先天性異常をもたらす疾患である。


【疫学】
 CRSは1999年4月の感染症法の施行により,全数把握疾患となつた。1999年には報告がなく,2000〜2003年は各1例であった(表)。 岡山県では今年第16週(4月12〜18日)に予防接種を受けたことのある母親が風疹に罹患し,出生児にCRSの発生があった。今年に入って全国で3例目,岡山県では2例目となる。

 11年ぶりに風疹がじわじわと流行を起こす兆しがでてきたと報じられた。特に


宮城,群馬,大分,鹿児島,大阪堺市ではすでに流行が拡大傾向にある。1994年の予防接種の改正で,接種対象からはずれた( 免疫のない谷間世代或いは空白世代といわれる)女性が子供を産む年齢を迎えたため,CRSの発生する懸念が高まっている。
「免疫のない谷間世代」といわれるのは1969年4月2日〜1986年10月1日生まれの現在15〜25歳間までの男女合わせて約1250万人(当時中学生以下の層は接種率が大きく低下)。予防接種法が改正され,その移行期間として,2003年9月30日まで予防接種費用を国が負担する経過措置が取られていたが,約半数の610万人が未接種と見ている。 厚生労働省が予防接種を呼びかける措置を取るよう,全国の自治体に異例の通達を行った。


【病原体】
 CRSの病原体は風疹ウイルスである。風疹ウイルスはTogavirus 科Rubivirus属に属する直径60〜60nmの一本鎖RNAウイルスでエンベロ−プを有する。上気道粘膜より排出されるウイルスが飛沫感染する。妊娠初期に風疹に罹患すると,風疹ウイルス(rubella virus)が胎盤を介して胎児に感染し,出生児に先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome:CRS)を引き起こすと考えられている。


【臨床症状】
 CRSの発生は妊娠週齢と相関し,妊娠12週までの妊娠初期の感染に最も多くみられ,20週以降はほとんど影響はないと言われています。妊娠中の感染時期により重症度,症状の発現期が異なるが,主な3大症候は感音性難聴,先天性白内障または緑内障,先天性心疾患(動脈管開存症,肺動脈狭窄,心室中隔欠損,心房中隔欠損など)がある。

 先天性異常以外に新生児期に出現する症状としては,溶血性貧血,血小板減少性紫斑病低出生体重,間質性肺炎,髄膜脳炎などがある。また幼児期以降に発症するものとして進行性風疹全脳炎,糖尿病,発育遅滞など多岐にわたる。


【病原診断】
 風疹ウイルスの検出は血清診断が保険適応のため,最も一般的に用いられている。従来より赤血球凝集抑制反応(HI)法が日常検査として導入されている。しかし,HI法での感染時期の判定には急性期と回復期の抗体価の成績が不可欠であり,採血時期(感染初期の検体入手が困難)や急性期と回復期と間に有意差が得られないことが多く,診断に困難を要することから,最近ではELISA(EIA法)が使われるようになり,急性期で特異的IgM抗体が検出されれば,単一血清での風疹感染が早期か否かの診断が可能になった。

 HI法は抗体検索,ワクチンの適応とその判定などに広く用いられている。

 しかしCRS発現の危険性と直接的な関連性は認められないため,IgM-ELISA法の併用が簡便で有用である。またCRS発現の可能性がある場合,臍帯血中のウイルス遺伝子を検出する方法(RT−PCR法:ウイルス遺伝子RNAを逆転写PCRで増幅して検出)が望ましい。


【予防】
 CRSに対するウイルスに特異的な治療法がなく,予防としては以下のことが考えられる
  1. 個人的防衛として女性は妊娠する前にワクチンによって風疹に対する免疫を獲得すること。
  2. 社会的防衛としては風疹ワクチンの接種率を上げることによって風疹の流行を抑制し,妊婦が風疹ウイルスに罹患しないようにすることが重要である。


【予防対策】
 風疹の罹患歴や予防接種歴がない妊娠可能年齢の女性は,妊娠する以前に予防接種を受けておくことが必要である。予防接種は,風疹とCRSを予防するための最大の手段である。しかし稀に,罹患歴や予防接種歴がある場合でも十分な免疫が獲得されていないこともあるので,抗体検査を行うことも必要である。妊婦は予防接種を受けることができないので,抗体のない妊婦は風疹に感染しないように,流行期は人ごみを避ける必要がある。また風疹ワクチンを接種してから2ヶ月間は予防接種のワクチンの影響でCRSの危険があるので,確実に避妊する必要がある。

 幼児期の定期予防接種の重要性を啓発するとともに,特に若い世代の男女に対して,妊娠する前に風疹抗体を獲得しておく必要性があることについて情報提供していかなければならない。


【感染症法における取り扱い】
 CRSは4類感染症全数把握であり,診断した医師は6日以内に最寄りの保健所に届け出る。


【おわりに】
 今年は風疹患者が5月末現在で2694人に達し,過去十年で最大規模の流行となる兆しを見せている。母親に風疹ワクチンの接種歴があるのに発生したケ−スがあることが厚生労働省の調査でわかった。風疹の場合予防接種歴や感染歴があっても,十分な免疫が獲得されないことがある。妊娠の可能性がある人は,ワクチン接種歴のある人でも,不安な場合は抗体検査を受けておくのが望ましい。風疹やCRSは予防接種により予防可能であり,制圧には予防接種率の向上が不可欠である。

ハムスターとスズメバチ

ハムスターに指をかまれアレルギーで窒息死 
 埼玉県に住む40代の男性が今年2月,飼育していたハムスターに指をかまれた直後に重症のぜんそくの発作が起きて意識不明となり,死亡。診断したさいたま赤十字病院によると,かまれたことでハムスターの唾液が男性の体内に入り,アナフィラキシー反応が起き,持病のぜんそくが誘発されて窒息死したとみられるという。男性は数年前から自宅でジャンガリアンハムスターを飼い,何度もかまれたことがあった。死亡当日はハムスターに左手の中指をかまれた後にせき込んで倒れ,心肺停止状態で同病院に運び込まれた。病理解剖により,ハムスターの唾液に含まれるたんぱく質に対する強い反応が確認された。
アナフィラキシーは,たんぱく質などの異物が体内に2回以上侵入した際に起きる全身性のアレルギー反応で,循環器や呼吸器が瞬時に機能不全に陥る。1995年以降,ハムスターなどのペットにかまれたことが原因のアナフィラキシーは全国で16例が報告されているが,死亡にまで至ることは極稀なことのようです。
 ハムスターを捕まえる時,ハムスターの体の下から抱き上げるようにすれば大丈夫です。上部から捕まえようとすると驚いて攻撃するので要注意!ハムスターを飼っている皆様,飼い犬に咬まれるではありませんが飼鼠に咬まれないように!
ではアナフィラキシーに関連して,最近被害報告の多いスズメバチについてまとめてみましょう。

・オオスズメバチから身を守る方法
 近年オオスズメバチの被害が続出しています。オオスズメバチは山村部のみでなく,高層ビルの立ち並ぶ都心部でも大きな巣を作っています。オオスズメバチが「日本で最も危険な野生生物」とさえいわれるのは,毎年何人もの人が,このハチに刺されて死亡しているからです。スズメバチの仲間は人間の生活域内またはそのすぐ近くに生息しているため,普通の人が被害に合う確立が高いのです。
オオスズメバチとはどんなハチなのか,何が危険なのか,そして犠牲者にならないためにはどうすればよいのかを確認しておきましょう。

・オオスズメバチとは
 日本には6種類ほどのスズメバチがいますが,その中で最も大きな種類です。体長は約3センチから5センチ,主に地中に巣を作って,女王バチを中心に社会生活をします。エサはアシナガバチなどのハチやその他の昆虫で,捕まえると肉団子にして巣に持ち帰ります。働きバチは,獲物を捕まえるのには強い大あごを使いますが,自分自身や巣を守るときには,お尻(腹部の先端)にある強力な針で外敵を刺し,強い毒液を注入します。スズメバチの仲間の中でも,攻撃性も毒の強さも最大です。


・オオスズメバチの何が危険?
 最も恐ろしいのは,刺された人がアナフィラキーショックを起こして死亡することです。一種の抗原抗体反応(アレルギー反応)で,最初に刺されたときの毒(タンパク質の一種)に対する抗体ができるため,次に刺されたときに毒(抗原)に抗体が激しく反応して強いショック症状を起こします。抗体ができていなくても,毒がとても強力なので,刺されたところがパンパンに腫れあがり非常に痛みます。内臓などへの影響も小さくありません。巣を守ろうと集団で攻撃してくるハチに何ヶ所も刺されると,それだけで命の危険があります。

・オオスズメバチから身を守る方法
 スズメバチやミツバチは,黒くて動くものに対して攻撃する性質があります。これは,よく巣を襲うクマに対する防衛本能だといわれています。スズメバチがいそうな場所へ行くときは,黒い服装は避けましょう。黒髪も帽子をかぶるなどして隠すべきです。(金髪に染めるのもいいかも?)また,ハチは各種のフェロモンにコントロールされて生活する昆虫で,においに敏感です。香水や整髪料などの中には,ハチを興奮させるものがあります。自然の中へ出かけるときは化粧品はできるだけ使わないようにしましょう。

・もしハチに出会ったら
 林の中で,獲物を探しているオオスズメバチに合うことがあります。逃げ回ったり,追い払おうと手を振り回したりするとハチは自分が攻撃されていると勘違いして,身を守るために反撃してきます。探索中のハチは人に合っただけで刺したりはしません。じっと動かないでやり過ごすのが正しい対処法です。たとえハチが体にとまったとしても,身動きしなければそのうち飛び去って行きます。動かないものは敵と認識しないようです。
 もし複数のスズメバチが飛びまわっているのに出合ったら,近くに巣がある可能性があります。それらのハチがカチッカチッというような音を立てているときは,確実にそこに巣があります。この音はハチが大あごを打ち合わせて出す音で,「これ以上巣に近づいたら攻撃するぞ」という警告音なのです。そのような場合は,速やかにしかも静かに,その場を離れてください。
 もし人家の近くでスズメバチの巣を見つけたら,危険を減らすために,その巣とハチは駆除すべきです。スズメバチ駆除の専門家にお願いしましょう。

・万一刺されたら
 まず,注入された毒液を速やにかつできるだけ多く取り除くことが重要です。ハチの毒は水に溶けるので,刺された部分を両手の指で強くつまんで毒を絞り出しながら水で洗い流します。アウトドアショップには「ポイゾンリムーバー」という,ハチやヘビの毒を吸い出すための救急用具が売られています。薬としては,抗ヒスタミン剤を含有したステロイド軟膏を塗ります。
 応急処置が済んだら,すぐに近くの病院へ行きましょう。アナフィラキーショックが起きると,短時間のうちに危篤状態になります。ハチ毒に対する抗体ができているかどうかは病院で調べてもらえます。他のハチに刺されただけでも,スズメバチの毒に対する抗体ができることがあるそうです。野外での活動が多い人はあらかじめ調べてもらって,対策(ショックを抑える薬など)を準備しておくとよいでしょう。
 都会には住めないといわれたオオスズメバチが,とうとう井の頭公園にも進出してきたのです。オオスズメバチの食性が変わったのでしょうか。それとも都会がオオスズメバチが生活できるほどの自然環境があるということなのでしょうか。行楽シーズンで山歩きに出かけられる人,公園で散歩を楽しまれる人,オオスズメバチに御注意ください。