感染症レビュー

〜尖圭コンジローマ〜

大阪市立大学医学部附属病院 中家 清隆


◆病態
 陰茎悪性腫瘍の代表的疾患は陰茎癌であり,良性腫瘍は尖圭コンジローマである。
 尖圭コンジローマはヒトパピローマウィルス(HPV:human papilloma virus)の6型と11型により起こり,表面がギザギザのイボのようで赤く,亀頭,冠状溝,包皮内板に多発する。大きさは3?5mmで,こすると出血し痛い。性病の一種であり,性行為により感染する。潜伏期は数週間?数か月であるが,自然に消退することもある。しかし,表面上消退してもウイルスが残存し感染源となることが多く,また再発することもある。コンジローマは女性にも感染し,大小陰唇,腟前庭,会陰部に先の尖った独特な形をしたカリフラワー状あるいは鶏冠状の腫瘍を形成する。大きさは数mmの小さいものから数cmのものまであり,単発のこともあるが数個のことが多い。しばしば子宮腟部に乳頭状あるいは扁平な病変を形成する。外観により尖圭コンジローマと扁平コンジローマとに区別されるが,一般に低リスク型のHPV(90%は11,6型)に感染すると,扁平上皮に覆われた多数の乳頭状突起からなる尖圭コンジローマを形成する。細胞の核は周囲に空胞をもつコイロサイトーシスを呈する。細胞異形の高いコンジローマは高リスク型HPVの感染であることが多く,進行するリスクが高い。これらの高リスク型HPV(HPV16,18,31,33,35型など)は扁平コンジローマを形成し,扁平コンジローマと子宮頚部癌は一連の病変で徐々に悪性度を増し,最終的には癌にいたる前癌病変とされる。したがって現在では扁平コンジローマの名称は使われず,前癌病変として細胞分化以上の程度によりグレード分類(子宮頸部:CIN1〜3,外陰部:VIN1〜3,膣:VaIN1〜3)されている。

◆感染
 HPVは性行為などを通じて伝播する。妊娠中HPV感染が急増するという報告もあり垂直感染する可能性もある。


◆検査
 一般にHPV感染の同定には,@細胞形態学的同定AHPV抗原の同定BHPV-DNAまたはRNAの同定CHPVに対する血中抗体の同定がある。

@細胞学的同定
 特有な封入体,空胞変性,乳頭腫症の有無などである程度診断できる。パラケラトーシス(parakeratosis,parakeratocyte),コイロサイトーシス(koilocytosis,koilocyte),濃染核(smudged nucleus)が主要な感染所見で,他に巨細胞(giant cell),多核細胞(multinucleation),多染性(amphophilia)などがある。細胞診断上は,パラケラトサイトとコイロサイトの2所見を認めた場合には,HPV感染と診断してよい。HPV感染細胞所見は軽度異形成で75%,中等度異形成で40%程度に伴う。
 組織中のHPV抗原およびHPV-核酸検出法(hybridization法,polymerase chain reaction;PCR法)で,HPV由来腫瘍かどうかが判定できる。核酸診断法はHPV型を分類できる。

AHPV抗原の同定
HPVキャプシッド蛋白抗原の同定にはウシコンジローマを抗原として得られた抗体,HPVの初期蛋白であるE6E7蛋白に対する抗体が市販されている。

BHPV-DNAまたはRNAの同定
Southern blot法にてHPV-DNAを検出する方法が基本である。
PCR法において共有プライマーを用いてDNAを増幅し制限酵素による切断パターンでHPV型も判定する方法がある。

(Decision Level)
  HPV16,18,31,33,35,45,51,52,56,58,61,66:子宮頸癌
  HPV31,45,52:子宮頸部異形成
  HPV38:悪性黒色腫
  HPV48:皮膚扁平上皮癌

CHPVに対する血中抗体の同定
 酵母にHPVL1/L2遺伝子を組み込ませて作らせた蛋白を抗原としたELISA法が開発されている。


◆治療
 包茎などの湿潤な場所に多発するので,もし包茎(仮性を含む)があれば環状切除を行いコンジローマ切除をする。包茎がない場合は,液体窒素,電気メス,レーザーなどで焼く。コンジローマを切除または焼灼した場合はゲンタシン軟膏を塗布する。外科的治療を拒否した場合には5-FU軟膏やブレオマイシン軟膏の塗布を行う。これらの軟膏は毒性が強いので,正常部分には塗布しないように細心の注意を払う必要がある。子宮腟部の病変には5-FU軟膏も用いられる。

外科的治療を拒否した場合
下記のいずれかを用いる

1) 5-FU軟膏(5%,5g) フルオロウラシル 
 1日1〜2回 患部に塗布
*原則として閉鎖密封療法(ODT)が望ましい
【適応】 皮膚悪性腫瘍(有棘細胞癌,基底細胞癌,皮膚付属器癌,皮膚転移癌,ボーエン病,パジェット病,放射線角化腫,老人性角化腫,紅色肥厚症,皮膚細網症,悪性リンパ腫の皮膚転移)
【注意】 眼には接触不可。粘膜周辺への使用は慎重に 手で塗布する場合,塗布後直ちに手を洗う
[妊] 回避(動物静注で催奇形性) 
[授] 授乳中止(未確立)
【副作用】 〈重大〉皮膚塗布部の激しい疼痛→ステロイド軟膏併用又は中止 〈その他〉皮膚(色素沈着,発赤,局所の出血傾向,爪の変形,皮膚炎,光線過敏症,爪の変色)→減量,休薬等処置

2) ブレオS軟膏(0.5%,5g)
 1日1回 局所塗布(閉鎖密封療法)
閉鎖密封療法が困難な場合:1日2?3回 単純塗布
標準的な用量:患部100cm2(10×10cm)につき1?2.5g(5?12.5mg)
【適応】 皮膚悪性腫瘍
〈併用禁忌〉胸部及びその周辺部への放射線照射:間質性肺炎・肺線維症等の重篤な肺症状を起こす


◆予防
 HPVは接触感染するので,性行為のときはコンドームを装着するように指導する。


その他のHPV疾患
(ウイルス性疣贅)
 ウイルス性疣贅は,HPV(HPV:human papilloma virus)感染により生じる皮膚・粘膜の良性腫瘍の総称で,尋常性疣贅,足底疣贅,青年性扁平疣贅や尖圭コンジローマなどがある。HPVには現在までに88の遺伝子型が知られ,HPV型と病型はある程度相関する。その他,足底粉瘤,ボーエン様丘疹症や疣贅状表皮発育異常症などの特殊病型があるが,最後の2疾患は発癌に関して注意を要する。治療については以下のとおりである

 (a)20%ステリハイド塗布法:尋常性疣贅・足底疣贅など
 (b)アルコール湿布法:尋常性疣贅・足底疣贅など
 (c)5-FU軟膏外用法:青年性扁平疣贅・尖圭コンジローマ・尋常性疣贅
 (d)タガメット:すべての病型
 (e)ヨクイニンエキス錠:すべての病型
 (f)外科的療法:切除,液体窒素凍結療法,電気焼灼やレーザー療法などがあり,症例によっては第1選択となる。外用療法や内服療法と併用することも多い。ボーエン様丘疹症は外科的に治療する。

(伝染性軟属腫)
 伝染性軟属腫ウイルス感染により生じる光沢のある小丘疹で,体幹に好発する。アトピー性皮膚炎患者に多い。治療はグルタルアルデヒド塗布法によることもあるが,眼科用ピンセットやトラコーマ鉗子を用いた内容圧出法や液体窒素凍結療法などの外科療法が主体である。


(文献)
 1)Medical Technology Vol.32 No.5(医歯薬出版)
 2)今日の治療指針2003年版(医学書院)
 3)今日の診断指針第5版(医学書院)
 4)治療薬マニュアル2003年版(医学書院)