微生物検査分野基礎講座報告1

第2回基礎講座(講義編) 〜培養・同定〜

近畿大学医学部附属病院 戸田 宏文

総 論

☆微生物検査の変遷
 かつては病原微生物の検索が中心であったが,環境衛生の向上,抗生物質の開発,医療の進歩による日和見感染症が増加し,病原性の考えられる微生物の検索が行なわれるようになっている。


☆培養・同定検査の位置付け

(利点)
・ 感染症診断の古典的ゴールドスタンダード・・・無菌材料からの菌の分離,明らかな病原菌の分離により感染症の診断が付く
・ 高感度・・・塗抹検査よりサンプリング量が多い
・ 培地と培養器さえあれば検査可能

(欠点)
・ 迅速性に欠ける・・・培養に一晩もしくはそれ以上かかる
・ 専門的技術,知識が必要・・・コロニーの選別,釣菌には経験が必要
・ 病原的意義の解釈には限界がある・・・特に常在菌の混入した検体では病原菌の判断が困難


☆微生物検査の目的
・ 感染症起炎菌の検索,特定微生物の検索(術前のMRSAスクリーニング検査,妊婦のGBS検索)
・ 経過観察,菌陰性化の確認
⇒予め検出対象菌種,使用培地,培養方法および報告様式などを臨床医と話し合うこと

☆培養検査を実施する前に知っておきたいこと
・ 検査目的
・ 患者に関する情報(基本情報,経過,症状,処置,検査値,抗菌薬療法など)
・ 検体が採取された状況(日時,採取法,容器,保存条件など)
・ 塗抹・鏡検の結果

☆出来る限り詳細に同定し報告すべき集落
・ 依頼目的となっている微生物
・ 無菌材料から分離された微生物
・ 絶対的な病原微生物
・ 感染症新法で類型分類されている微生物
・ 院内感染対策上,注意が必要な微生物
・ 通常,考えにくい部位から分離された微生物
・ 明らかな菌交代症を起こした微生物

尿路系材料における分離培養例

材料:尿,泌尿生殖器分泌物
培地:血液寒天培地,BTB乳糖寒天培地
備考:定量培養を併用:ディップスライド法,定量白金耳法
    泌尿生殖器分泌物にはサイヤー・マーチン培地,チョコレート寒天
    培地を追加し,5%炭酸ガス培養を実施
    閉塞性の場合のみ嫌気培養を実施

呼吸器系材料における分離培養例

材料:喀痰,気管内洗浄液,咽頭粘液,鼻腔粘液,経気管吸引物,気管内
    チューブ,肺穿刺液,胃液など
培地:血液寒天培地,チョコレート寒天培地,BTB乳糖寒天培地
備考:膿性で悪臭のある喀痰や肺化膿症が疑われる場合は嫌気培養の実施
    真菌症が疑われる場合は真菌用培地を追加
    MRSA検索には選択培地を用いる
    血液寒天培地,チョコレート寒天培地は5%炭酸ガス培養

呼吸器系材料では,検体の良し悪しで検査結果が大きく左右されるため,
適切な材料採取に努力が必要

腸管系材料における分離培養例

材料:糞便,腸粘膜
培地:DHLまたはBTB乳糖寒天培地,TCBS,SSスキロー,O157検出
    用培地,セレナイトブロス,アルカリペプトン水
備考:偽膜性腸炎が疑われる場合にはCCFAによる嫌気培養を追加
    スキロー培地は微好気培養で2日以上培養
腸管系材料は,検体の肉眼的所見や患者背景(特に渡航歴)などにより必要に応じて培地を追加したり,塗抹検査を実施したりする

☆簡易同定キットによる誤同定
簡易同定キットは絶対ではなく以下の様なときには注意が必要である
 @ 菌コード,菌名がない
 A 同定確率が低い
 B 伝染病原因菌の同定された
 C 極めて検出稀な菌に同定された
 D 集落の性状と菌名が一致しない
 E TSI培地所見と菌名が一致しない
 F 薬剤感受性結果と菌名が一致しない
結果の読み違いはないか,使用条件は正しいか,コンタミネーションはしていないか確認が必要である