感染症レビュー

〜髄膜炎菌性髄膜炎(Meningococcal meningitis)〜

近畿大学医学部附属病院 戸田 宏文


【はじめに】

 化膿性髄膜炎の中で髄膜炎菌を起炎菌とする疾患を髄膜炎菌性髄膜炎という。
 ときに大規模な流行性の髄膜炎を起こすことから,流行性髄膜炎ともよばれる。(他の髄膜炎を起こす病原性細菌は,流行性ではない)


【疫 学】

 本邦においては第二次世界大戦前後が症例数のピークであったが,1960年代前半からは激減して,近年では稀な疾患となっている。海外においては特に髄膜炎ベルト(meningitis belt)とよばれるアフリカ中央部においてその罹患率が高く,また先進国においても局地的な小流行が見られている。
 一般的に患者としては生後6ヶ月から2年の幼児及び青年が多い。髄膜炎菌は患者のみならず,健常者においても5〜20%の保菌率を示す。保菌者が何故無症状のままであるかは気候や空気汚染等の環境条件(自然界では生存不可能)や栄養条件,宿主側の免疫力の相違などが原因因子の一部として考えられているが,現在のところ明確な見解はない。


【病原体】

 髄膜炎(Neisseria meningitidis) は1887年にWeichselbaumによって急逝髄膜炎を発症した患者の髄液から初めて分離された。大きさは0.6〜0.8μm,グラム陰性の双球菌で,非運動性である。
 本菌はくしゃみなどによる飛沫感染により伝播し,気道を介して血中に入り,さらに髄液にまで進入することにより敗血症や髄膜炎を起こす。
 髄膜炎菌は莢膜多糖の種類によって少なくとも13種類(A,B,C,D,X,Y,Z,E,W-135,H,I,K,L)のSerogroup(血清型)に分類されているが,起炎菌として分離されるのはA,B,C,Y,W-135が多く認められ,A,B,Cが全体の90%以上を占める。


【臨床症状】

 潜伏期間は3〜4日とされている。
 気道を介して血中に入り
  1) 菌血症(敗血症)を起こし,高熱や皮膚,粘膜における出血班,関節炎等の症状が現れる。
  2) 髄膜炎に発展し,頭痛,吐き気,精神症状,発疹,項部硬直などの主症状を呈する。
  3) 劇症型の場合には,突然発症し,頭痛,高熱,痙攣,意識障害を呈し,DICを伴いショックに陥って死に(Waterhouse-Friderichsen症候群)

 菌血症で症状が回復し,髄膜炎を起こさない場合もあるが,髄膜炎を起こした場合,治療を施さないとその死亡率はほぼ100%に達する。抗菌薬が比   較的有効に効力を発揮するので,早期に適切な治療を施せば治癒する。


【病原診断】

 確定診断には髄液検査が必要である。抗菌薬投与前に髄液を採取する。

 1. 髄液所見
 外観は混濁。糖量は減少し,蛋白量は増加する。(化膿性髄膜炎の所見)

 2. 培養および鏡検
 ・ 髄液を遠心(3000rpm,10-15分)し,沈殿物をスライドグラスに塗抹し,グラム染色を行う。多数の好中球(多核球)とその内部,外部にグラム陰性の双球  菌が確認されれば,ほぼ髄膜炎菌感染と判断できる。
 ・ 培養は髄液採取後,極力早く行なうことが望ましい。分離培養用培地にはThater-Martin寒天培地,GC寒天培地が使用される。

 培地をあらかじめ37℃に暖め,髄液を直接あるいは髄液遠心沈殿物を塗抹する。5%炭酸ガス加条件で高湿度環境で培養する。16〜36時間後には径1mm程度の光沢のある半透明の集落が形成される。

3. 直接抗原検査
 ・髄液から化膿性髄膜炎の原因菌の抗原を直接,迅速に検出できるキット[Slidex meningi kit (bio Merieu)]が市販されている。このキットはA,B,C群の髄膜炎菌,肺炎球菌,インフルエンザ桿菌の特異抗原の対応した抗体を感作したラテックス試薬を含む。ただし,本キットではA,B,C群の抗原しか検出できない点に留意する必要がある。本キットは,上記の鏡検および培養検査に並行して実施することが望ましい。鏡検で菌が確認できない場合でも検出できる場合もある。すでに抗生剤が投与されている患者では鏡検,分離培養での菌確認は困難であるが,この検査では検出されることもある。


【治療・予防】

 第一選択薬としてpenicillin G(PCG)が,第二選択薬としてはchloramphenicol(CP)が推奨されている。また一般に髄膜炎の初期治療に用いられるcefotaxime(CTX),ceftriaxone(CTRX),cefuroximine(CXM)は髄膜炎菌にも優れた抗菌力を発揮するので,菌の検査結果を待たずしてCTX,CTRXをPCGと併用すれば起炎菌に対して広範囲な効果を現し,早期治療の助けとなる。
 予防としてはまずワクチンが挙げられる。現在ではA,C単独もしくはその二群およびA,C,Y,W-135の四群混合の精製莢膜多糖体ワクチンが使用されている。しかし,本邦においては発生率の低さからワクチンは認可されておらず,現在のところアフリカ等の髄膜炎菌髄膜炎多発地域に行く旅行者でワクチン接種を希望する場合は海外から個人輸入するか,海外で接種する以外に方法はない。
 患者と接している人の感染率は一般の人に対してかなり高くなるため,ワクチン以外の予防法として抗生物質の予防投与が推奨されており,主にリファンピシンが用いられている。


【感染症新法における取り扱い】

 1999年4月に施行された感染症新法において4類感染症に分類され,全数把握の対象となっている。髄膜炎菌性髄膜炎による患者を診断した医師は速やかに最寄の保健所長を通じて都道府県知事に届け出なければならない。


【参考URL】

http://idsc.nih.go.jp/index-rj.html (感染症情報センター)