〜LIM培地とSIM培地〜

大阪第二警察病院 池田 千賀子



▼LIM培地▲

〔使用目的〕
 腸内細菌およびその類似菌などの鑑別に用いられ,リジンカルボキシラーゼ(リジン脱炭酸)産生性,インドール産生性および運動性を同時に試験する。

〔組成〕
培地1.000mLあたり
・ 酵母エキス 3.0g
・ ペプトン 12.5g
・ ブドウ糖 1.0g
・ L-リジン塩酸塩 10.0g
・ L-トリプトファン 0.5g
・ ブロムクレゾールパープル 0.02g
・ 寒天 3.0g
pH6.7±0.2

〔特徴〕
 高層として使用し,滅菌後の培地色は,pH指示薬としてブロムクレゾールパープル(BCP)の添加により,紫色である。
 リジンが含まれているので,リジンカルボキシラーゼ産生性を判定することができる。
 リジン脱炭酸陽性の菌の場合,まずブドウ糖を分解して酸を産生し,培地のpHは一時酸性に傾きますが,そのpHが6.0以下になるとデカルボキシラーゼが活性化されてリジンを脱炭酸しアルカリ性のアミン(カダベリン)が産生されますので,培地全体が未接種の培地よりも明瞭な紫色を呈する。培地の上層のみ紫色のものは陰性とする。したがって,リジン脱炭酸陰性の菌の場合,デカルボキシラーゼを産生しないためブドウ糖を分解するだけにとどまり,培地は酸性のままで培地色は表層のみ紫色で深部が黄色を呈する。

 リジン脱炭酸                        黄
リジン→→→→→→→→→→→→→→カダベリン→↓→ブロムクレゾールパープル
    リジンデカルボキシラーゼ             紫

 また,トリプトファンが含まれているので,インドール産生性を判定することができる。インドール陽性菌はトリプトファンから産生されたインドールが,培養後に滴下したエールリッヒまたはコバックのインドール試薬のパラジメチルベンズアルデヒドと反応して赤色のロジンドールが産生され,試薬部が赤変する。インドール陰性菌は無変化である。

 インドール反応
トリプトファン→→→→→→→→→→→インドール+ピルビン酸+NH3
        トリプトファナーゼ
インドール+インドール試薬→ロジンドール(赤色)

 さらに,半流動培地なので,運動性が判定でき,非運動性のShigellaなどは穿刺線のみに発育するが,運動性のSalmonellaなどは培地全体に発育して混濁する。

〔注意点〕
 一部の腸内細菌(とくに大腸菌,Salmonella,Enterobacter)は,培地中の色素を還元して脱色し,培地色が白っぽくなり,陰性と誤認されやすくなる場合があり,メラーのリジン培地など,他の培地で確認する。


▼SIM培地▲

〔使用目的〕
 腸内細菌およびその類似菌の鑑別に用いられ,硫化水素産生性,インドール産生性,運動性およびIPA反応を同時に」試験する。

〔組成〕
培地1.000mLあたり
・ 肉エキス 3g
・ カゼイン製ペプトン 30g
・ チオ硫酸ナトリウム 0.05g
・ クエン酸鉄アンモニウム 0.5g
・ 寒天 3g
  pH7.1〜7.5

〔特徴〕
 硫化水素産生性は,培地の高層部が黒変した場合,陽性とする。これは菌がチオ硫酸ナトリウムを分解して生じたH2Sが,培地内の鉄イオンと反応して黒色の硫化鉄を産生するためである。まれにクリグラー培地,TSI培地では糖の分解により強酸性になると硫化水素の産生が抑制されることがあるが,SIM培地では陽性反応が観察される。運動性とインドール産生性についてはLIM培地と同じ。IPA(インドールピルビン酸)反応は,トリプトファンが基質となる脱アミノ反応である。培地の表層部の褐色化が認められれば陽性である。


【今月のゲスト】
 僕はフェレットの"せんいち"です。一時はペットとしてブームにのっかり,とても有名になりましたが,今ではアイフルのくう?ちゃんに負けて,忘れられた存在です。でも,僕の豊かな感受性からある微生物の実験動物として重宝されています。さあ,こんな僕から微生物を思い浮かべて下さい。